前の解説へ 次の解説へ

110 経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン

平成21年2月9日、中小企業庁は、「中小企業における経営の承継円滑化に関する法律(経営承継法)」の固定合意を活用する際に必要となる非上場株式等の評価方法についての考え方を示した
「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」を公表しました。

1.経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン公表までの経緯

平成20年5月に成立した経営承継法では事業承継の際に大きな障害となり得る遺留分の問題を解決するために、「遺留分に関する民法の特例」制度が創設されました。

遺留分に関する民法の特例制度では、後継者が旧代表者からの贈与等により取得した株式等について遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことを合意する「除外合意」と、後継者が旧代表者から贈与等により取得した株式等について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を合意の時における価額とする「固定合意」が認められます。

「固定合意」の場合には、非上場株式の価額が「合意の時における相当な価額」であることについて弁護士(弁護士法人)、公認会計士(監査法人)、税理士(税理士法人)等の専門家の証明が必要になります。

しかしながら、遺産分割等に係る民法上の非上場株式等の評価方法について確立されたものがなかったため、「法的な拘束力はないものの経営承継法における「固定合意」を利用する際の非上場株式の評価方法のメルクマールとなることを期待して(経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン「本ガイドラインの趣旨及び目的」より抜粋)」経営承継法における非上場株式等評価ガイドラインが作成、公表されました。

以下、当該ガイドラインによりまとめられた各種評価方式や選択に係る留意事項等の概略を記載します。

2.各種評価方式

非上場株式の評価方式は、収益方式、純資産方式、比準方式に分類されます。各評価方式の内容・ 特徴、評価方式の選択にあたって留意すべき事項等は次のとおりです。

分類 内容・特徴 評価方式 選択にあたっての留意事項
収益方式 評価対象会社が将来獲得する利益やフリーキャッシュフロー(FCF)を一定の割引率で割り引いた現在価値に基づき株式の価額を算定する方法 (1)収益還元方式
(2)ディスカント
キャッシュフロー
(DCF)方式
(3)配当還元方式
・将来の事業計画を用いる場合には、事業計画の内容によって評価結果が大きく異なるため、事業計画については慎重に採用すべきである。
・評価対象会社株式は、 支配株式であることが予想されるため配当還元方式の適用の妥当性は低いものと思われる。
純資産方式 評価会社の貸借対照表上の資産から負債を控除して求めた純資産価額に基づき 株式の価額を算定する方法 (1)簿価純資産方式
(2)時価純資産方式
客観性には優れてはいるものの各資産の価額が帳簿価額と乖離している場合が多く、継続企業を前提とした評価が求められることから基本的には、 再調達時価純資産価額方式が妥当と考えられる。
比準方式 評価対象会社と類似する上場会社(特定類似会社、全ての類似業種)の株式の市場価額や評価対象会社の株式の過去の取引事例を参考に株式の価額を算定する方法 (1)類似会社比準方式
(2)類似業種比準方式
(3)取引事例方式
・対比する上場会社を選定する際に、評価対象会社と類似していることを基準とし、評価の客観性を高めるために複数の上場会社の選択が必要である。
・取引事例を摘用する場合には、取引時点、買主の特性、対象株式の発行済株式総数に対する割合の類似性、取引事例の価額が合理的方法で評価されているかを検討した上で選定することが必要である。
国税庁方式 相続税法上、財産の価額は、「取得の時における時価」と考えられており、課税実務上は、財産評価基本通達に基づき株式の価額を算定する方法 (1)類似業種比準方式
(2)純資産価額方式
(3)併用方式
当事者間で、国税庁方式以外の評価方式も含め、 ガイドライン記載の各評価方式についての情報を共有した上で、国税庁方式に基づく評価で合意するのであれば、その価額には、一定の客観性・合理性があると考えられる。