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106 特定口座の利用にご注意

平成15年に導入された特定口座は、導入から5年近くたち最近ではかなりなじみ深くなってきましたが、個人投資家の簡易な申告を可能とし、さらに個人投資家の選択によって証券会社に源泉徴収を行ってもらい、確定申告を不要にすることもできるという制度です。最近の世界的な金融不安や株式市場の混乱により平成21年度税制改正で大幅に変更される可能性がありますが、株式の譲渡損失が発生した場合にその損失を翌年以降に繰り越すための要件や平成20年度の税制改正による平成21年以降の取り扱いについて注意すべき点があるので確認していきましょう。

1.譲渡損失の場合

年間合計で上場株式等の譲渡損失が発生した場合は、確定申告をすることによってその損失を3年間繰り越すことができます。また、翌年以降に譲渡利益が発生した場合、繰り越された損失までは利益を通算することができるため、確定申告をすることで源泉徴収された税額を取り戻すことができます。しかし源泉徴収口座を選択した場合で、確定申告をしなかった場合には、その損失はその年度で打ち切りになるので注意が必要です。

2.特定口座の源泉税率の改正

源泉徴収口座を選択した場合には、上場株式等の売買利益に対し10%(所得税7%、住民税3%)の税率で源泉徴収がされていましたが、平成20年度税制改正による上場株式等の譲渡所得に対する10%の軽減税率の廃止及び特例措置として平成21、22年は税率10%のままですが、平成23年1月1日以降は20%(所得税15%、住民税5%)の税率により源泉徴収されることになります。

3.配偶者・扶養控除の対象外となる可能性

配偶者又は扶養親族の方が源泉徴収口座で株式の取引を行い、確定申告を行わない場合には、その源泉徴収口座内の譲渡益については合計所得金額に含めないため、年間の譲渡益がいくらあっても株式譲渡以外の合計所得金額が38万円以下であれば、配偶者・扶養控除の対象となります。
しかし、平成20年度税制改正によって、平成21、22年については源泉徴収口座であっても年間の譲渡所得が500万円を超えた場合には、税額の精算をするために確定申告をする必要があります。したがって、年間の譲渡所得の金額によっては配偶者・扶養控除の対象とならない可能性があるので注意が必要です。

4.特定口座内での配当所得との損益通算

平成20年度改正によって、平成21年以降は配当所得と上場株式等の譲渡損失を損益通算することができようになります。
また平成22年以降は、特定口座で配当金を受領できるようになるため、同一の源泉徴収口座であれば口座内で自動的に配当所得と上場株式等の譲渡損失を損益通算することができるので、より一層手続が簡便になります。ただし、平成22年だけは損益通算後の配当所得が100万円を超える場合(少額配当等を除く)には確定申告が必要となります。また、上場株式等の譲渡損失を配当金とではなく他の源泉徴収口座で管理している上場株式等の譲渡利益と通算したいときにも確定申告が必要となります。

平成21年はまだ特定口座で配当金が受領できないため、配当所得と上場株式等の譲渡損失を損益通算するためには源泉徴収口座であっても確定申告が必要となります。