前の解説へ 次の解説へ

112 上場有価証券の評価損

新聞報道や雑誌の特集などで注目を集めている上場有価証券の評価損についての税務上の取扱いですが、この平成21年4月3日に国税庁からQ&Aが公表されたため、決算を行うにあたってはその内容を十分吟味してから申告作業に取り掛かりたいところです。

(http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/090400/index.htm)

過去の一口解説でも述べられているところですが、税務上は資産の評価損については原則その評価損は所得の金額の計算上損金の額に算入されず、損金算入が認められる例外は非常に限定的なものとなっています。

特に上場有価証券で税務上評価損が認められるには、(1)事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ること、(2)近い将来その価額の回復が見込まれないこと、(3)評価損として損金算入することの3つ全てを満たす必要があります。その中でも(2)の回復可能性の見込みについては、実務上明確な判断基準も判断基準と考えるべき材料もなく、どの程度回復が見込めなければ良いのか判断がつかない場合が殆どでした。

しかしながらこの株式市場の大幅な株価下落に伴い、経済危機対策の具体的施策として税務上の損金算入に関する取扱いの明確化及び周知が図られることとなり、Q&Aによって今回公表されることとなった訳です。

中でも、最も判断に迷った(2)の部分については、法人の側から、過去の市場価格の推移や市場環境の動向、発行法人の業況等を総合的に勘案した合理的な判断基準が示される限りにおいては、税務上その基準は尊重されるとされています。また、この合理的な判断基準として、専門性を有する第三者である証券アナリストなどによる個別銘柄別・業種別分析や業界動向に係る見通し、株式発行法人に関する企業情報などを用いて、当該株価が近い将来回復しないことについての根拠が提示されるのであれば、これらに基づく判断は合理的な判断であると認められると記載されています。

また、損金算入して申告した後において株価が回復してしまった場合が懸念されていましたが、この点も事業年度末時点において判断した内容については、その後において株価が回復したとしても是正の必要がなくあくまで事業年度末において回復可能性を判断すればよいことが例示されています。

従来どのように回復可能性を判断したらよいか全く分からなかった状況から比べれば、かなり損金算入する処理がし易くなったように感じられます。今回の株価下落による影響額はそもそも多額であることが多いですし、また、資金繰りや経営環境自体が厳しい状況の中にもありますので、申告内容について予め会計事務所等と打ち合わせをしておきたいところです。